ちらちら影がさしたり、小石の上にちらと光が流れたりするのが、面白い。それほどきれいな水だった。
 その時も、我を忘れて、橋の欄干から身を乗り出し、川の中を一心に覗いていた。すると、突然、馬の足音が聞えた。駆けてくるのだ。すぐそばに、身近に、ぱかっぱかっと駆けてくる。振り返ると、もう馬は橋にさしかかり、わたしの方へ真直に向ってくる。よける隙もない。あ、と声を出すと同時に息をつめ、橋の反対側へ飛びのいたが、馬はそっちへ来るし、わたしはまたこちらへ飛びのいたが、危い、と思うと共にまたあちらへ飛びのいた。とたんに、真黒な風のようなものが身を掠め、わたしは欄干にすがりついて屈みこんだ。
 つぶっていた眼を開くと、橋を渡りきったすぐそこに、馬は止っていて、男のひとが馬から降り、手綱を引っぱって戻ってきた。わたしは少し極りわるく、立ち上って、無意味にお時儀をした。
「怪我はなかったでしょうね。」
 わたしは無言で頭を振った。
「動かないでおればいいんですよ。いきなり、道の真中に飛び出してくるもんだから、こっちでびっくりしちゃった。」
 ずいぶんぞんざいな言葉つきだ。
「あ、こいつあいけない。」
 言
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