、きっぱりお知らせしよう。正式に作法通りに、御通知の挨拶だけしよう。どんな顔をなさるか。それに、あのひとのお住居も拝見してやろう。
 わたしはひとり心の中で決心した。

 思いきり派手なドレスを着、髪を風になびかしてわたしは出かけて行った。
 小野田さんの居所は、近藤別邸となっていたが、それはすぐに分った。堂々たる洋風の構えで、白樺や落葉松の植込みがあり、自動車置場らしいものまであった。窓はすべて閉め切って、カーテンが下してあり、低い土手囲いの中央にある入口には、頑丈な木格子の門扉が閉鎖されていた。様子がおかしいので、横手へ回ってゆくと、野薔薇のからみついた門柱が二本立っていて、奥まで見通しで、別棟の平家があった。わたしはちょっと躊躇した後、はいっていった。馬の蹄の跡で道はでこぼこだ。
 いやにしいんとしているその平家の、向う側は、水音がしていた。わたしは案内を乞うのをやめて、水音のする方へ行ってみた。
 見ると、上半身裸体の男が、大きな馬盥の水で馬を洗っていた。小野田さんがいつも乗ってる栗毛の馬だ。わたしは黙ったまま佇んだ。男は馬の向う側に回った。顔を見合せると、それが小野田さんだっ
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