した方がよろしかろうと勧めていらしたし、川井の伯父さまから丁度、湘南の或る療養所に室の予約が出来たことを知らせて来た。
 お母さまとお姉さまとは、なにか御相談なすっているらしかった。
「でも、来て下さるかしら、わたくしがこんな病気なのに。」
「お招きすれば、きっと来て下さるよ。御一緒に食事をするわけではないのだから。」
「来て下さるとは思いますけれど、お招きして断られたら恥ですもの。」
 なんのことかと尋ねてみたら、ここを引き上げる前、お世話になった菊地さん御夫婦といっしょに、小野田さんも、お食事に招きたいという話だった。わたしは呆れた。
「そんなことなら、わたくしが内々お聞きしてみましょう。」
 わたしは心と逆なことを言ってしまった。小野田さんはいったい失礼な人だとわたしは思っていたのである。自分勝手によその牛乳を取りに行ったり、わたしの楽しみを奪い取ったり、裏口だけで一度も上にあがらなかったり、物知らずにも程がある。その上、馬のことで、お姉さまやお母さまの神経をどれほど悩ましてるか知れない。お食事に招くことなんか、そもそもおかしい。わたしが出かけていって、ここを引き上げることだけを
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