が村上は急に思い出したように云った。
「一体今日はどうしたんだい。」
「何が?」
「何だかいつもと調子が違うぜ。」
「ああそうか、」と云ったが、松井は急に種々なことが頭の中に湧き返った。種々の思いが一緒に口から出て来た。「僕はもうあの家で余り夜更しをしたくないと思ってる。球を突き倦いてしまってからまで愚図々々しているのはもう嫌になっちゃった。……第一あの林という男は不愉快だね。あの妙に黙ったねっちりした態度が気に喰わないや。それにどうしたんだか彼奴が居る間は僕達もやはり帰らないようになったんだね。何も彼奴の向うを張っておたか[#「たか」に傍点]をどうかしようというんじゃあるまいし、実際馬鹿げてる。……一体余り遊んでると頭が散漫になっていけない。」
「妙な考え方をしたもんだね。そんなことを考えるからいけないんだ。まあ君、ある遊戯を二人なり三人なりでやる場合に、対手が其処に居る間はこちらもやはり遊んでいたいというのは、普通のことだろうじゃないかね。……君のように考えるのは危険だよ。君あのおたか[#「たか」に傍点]という女は大抵の女じゃないよ。どうも陰影の少い男性的な、余りほめた顔じゃないん
前へ
次へ
全32ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング