いが客の対手をしたりゲームを取ったりした。いつもは主人が客の対手をするんだが、もう大分頭の禿げかかった彼は、夜は眼がよく利かないと云って早くから奥にはいるのであった。で客の多い時は上さんが出て来て一方のゲームを取ったが、大抵はおたか[#「たか」に傍点]一人であった。でよく夜更けまでおたか[#「たか」に傍点]を相手に遊んでいく客があった。村上と松井と林とは殊に夜更かしの連中であった。村上と松井とは連れであった。林はいつも一人でやって来た。彼等が林という名前を知ったのも、「林さん如何です。」というおたか[#「たか」に傍点]の言葉からであった。
 松井はその日午後から気分が晴々としなかった。考えるもの見るもの凡てが、しきりに胸の奥へ沈み込んでゆくような心地であった。そういう憂鬱は彼には珍らしくもなかった。彼はその時何時も自然に種々なことをしきりに考え込んだ。
 で彼はまたぼんやりと取りとめも無い思いに耽りながら、村上とおたか[#「たか」に傍点]とに突かかる球を見ていた。それからふと視線をそらして林を見ると、林は一心に球の方を見つめている。
 その時松井の心にふと嫌悪の情が閃めいた。
 松井と
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