が淋しく美しく輝いた。
彼はやはりよく球突に通った。多くは村上と二人で、稀には自分一人で。然しおたか[#「たか」に傍点]の周囲にはそれきり何の変りもなかった。ずるずると引きずられてゆくような現状が続いた。
けれどある日おたか[#「たか」に傍点]は球突場に姿を見せなかった。そしてそのまま五日過ぎ十日過ぎるようになった。と前後して林の姿も見えなくなってしまった。
松井と村上とは余りおたか[#「たか」に傍点]のことについて話し合わなかった。彼等はその話を避けるようになった。ある気まずい感情があって、それがお互に心の底を隠すようにさした。
ある晩、松井が自分の室の障子をあけて、ぼんやり空の星と庭の木立とを見ていた時、そしてとりとめもなくおたか[#「たか」に傍点]とその周囲とのことを腹立たしく思い起していた時、村上が急いでやって来た。
「おいおたか[#「たか」に傍点]に逢ったよ。」と村上は眼を丸くしていた。彼が友の家を訪ねて、帰りにぶらりぶらり広小路を歩いて来ると、向うからおたか[#「たか」に傍点]がやって来るのに出逢った。お召の着物と羽織を着てキルク裏の草履をはいていた。村上に気がつい
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