んな日はいやですわ。どうしていいんでしょうね。それじゃ燈台守にでもおなりなさるといいわ。」
「燈台守たあ変なことを考えたもんだね。」
「私の叔父さんに燈台守をやってた人があったんですよ。何でも富山の方ですって。随分珍らしいことがあるそうですわね。」
「そりゃあそうだろうね……。君は一体国は何処なんだい。」
「伊豆ですよ。」
「へえ近いんだね。……流れ流れて東京に着いたというんだね。」
「ひどいことを仰言るわね。そりゃ種々な事情があったものですから。」
 おたか[#「たか」に傍点]は其処で身の上話を初めた。それは普通の小料理屋の女中が喋べるのと似寄った経歴だった。どこまでが本当でどこまでが嘘か分らない底のものだった。ただこういう話を松井は面白くきいた。何でも彼女が浅草の叔母の所に暫く厄介になっていた時の話である。叔母につれられてある晩散歩に出かけた帰りに丁度公園の中を通ると、ベンチに眠り倒れている小僧があった、でおたか[#「たか」に傍点]はそっと持っていた銀貨をその側に置いてきた。家に帰ると叔母からお金を落したんだといって大変叱られたが、そのことは黙って隠してしまったそうである。
「それ
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