ああいってみようよ。」
「実は……、」と云いかけて村上は相手の顔を覗き込むようにした。「僕はちとあの家には不愉快なことがあるんだ。」
「どうしたんだ。」
「なに昨夜ね、一人で出かけちゃったんだ。十一時頃までついたがね。おしまいには僕一人になってしまったんだ。林もやって来ないしね。するとおたか[#「たか」に傍点]がね、お対手がなくて淋しいでしょうと云って、変に皮肉な笑い方をしたんだ。……一体君はおたか[#「たか」に傍点]と林とをどう思ってる?」
「どうって何が?」と松井はどう返事をしていいか迷った。
「先からあやしいんだ。君だってそれ位のことは分ってるだろう。あのお上がいいようにしたんだね。……そこで、あそうそう、おたか[#「たか」に傍点]が僕にお淋しいでしょうと云ったから、僕も少しふざけて林のことでおたか[#「たか」に傍点]を散々ひやかしてやったのさ。」
「へえ!」
「なに奴《やっこ》さん洒々《しゃあしゃあ》たるもんだ。所がね、側に居たお上が少し意地悪く出て来たんだ。村上さんも嫉妬やくほど御不自由でもないでしょうへへへと笑いやがるんだ。そしておたか[#「たか」に傍点]と見合っては皮肉な
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