る。それによって、たとえ徐々にせよ、アメリカ軍隊を撤退させるべきであって、何もかもそして常に、アメリカにのみ頼ろうとするのは、それこそ亡国根性である……。そのようなことを石村は威勢よく饒舌った。ふしぎに、憲法の改正とか日本共産党の問題とかは、一言も出なかった。皆が彼に相槌を打った。酒の勢も加わっていた。
 そういう空気に、青木は反撥を感じたようだった。これにも酒の勢があった。そして淮河の治水工事を持出した。どこで読んだのかはっきり覚えていなかったが、へんに頭の中にこびりついていたのである。
 淮河は、河南、安徽、江蘇の三省にまたがる大河であって、二千年間に約千回もの大※[#「さんずい+巳」、第3水準1−86−50]濫を起している。一九三一年の大洪水には、罹災者二千万人にも及んでいる。そして一昨年夏の大洪水を契機に、中共政府は、淮河の大治水計画を決定した。五カ年内に完成する計画だが、工事参加民工は二百二十万を超えるもので、その流域の五千五百万の人民は永久に洪水の脅威を免かれ、中国の総耕地面積の七分の一に当る田畑が灌漑されることになっている。昨年七月にはその第一期工事が完成され、築堤、浚渫
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