れないが、然し、あの時の君の態度は、どうもそうとしか受取れなかったからね。」
「へえー、どんな態度ですか。」
「中国で目下進捗してる淮河の治水工事などを持出して、さんざん今西の機嫌を取ったじゃないか。」
「淮河の治水工事ですって……。」
「そうだ。あれこそ本当の民衆のための建設工事だとかなんとか吹聴して、今西の気に入ろうと努めたろう。なにか下心あってしたことに違いない。」
青木は額に掌を当てて、回想してみた。あの時も、後で冷汗の出る思いだったが、今になっても、後味の悪さは同じだった。もっとも、すっかり酔っ払ってからのことだったので、詳しくは覚えていなかった。
あれはたしか、日米安全保障条約による行政協定が締結された頃のことだった。石村は主な社員たちを喜久家に招待して御馳走した。席上、石村一人が主として饒舌った。要旨は、アメリカ一辺倒に対する非難と、再軍備の主張だった。警察予備隊増員の計画もあるが、あのような組織では、たとえ如何ほど増員し、どのような装備をさしたところで、精神がだめだから、国防の万全を期することは出来ない。たとえ徐々にせよ、再軍備を行うことが、真に独立を確保する途であ
前へ
次へ
全26ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング