払いの話なんかは、これは情報とも言えないからね。」
青木は頭を掻いてみせた。
「まったく、私はいつも酔っ払ってばかりいて、自分でも情けないと思っています。」
「情けないどころか、大した腕前じゃないか。酒ばかりでなく、女にかけてもそうだろう。」
「え。」
青木は顔を挙げて、石村の眼を見た。
石村は眼をくるりとさして、揶揄するように微笑した。
「いいことを聞かしてやろうか。君はあれからまた、今西を喜久家に連れ込んだね。」
青木は口が利けなかった。今西巻子、それは石村証券の女社員だった。
「僕が知らないとでも思ってたのか。迂濶だね。喜久家は僕がよく飲みに行く家だよ。君がいくら内緒にと頼んでも、僕の耳にはいらないわけはないじゃないか。」
「済みません。金が無かったもんですから、つい、あすこを利用する気になったんです。然し、あすこの払いは、ボーナスで済ますつもりでいます。」
「金のことは気にしなくてもいい。僕が払っておいてやった。上海にいた時と同じことさ。然し、大事なのは……。」
言いかけたままで、石村はウイスキーをなめながら考え込んだ。
上海にいた時、それは戦時中のことで、石村は特
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