首になるかと、始終びくびくしていなければなりません。」
「よく分った。そう遠廻しに言わなくてもよかろうじゃないか。上海以来の知り合いだし、この会社でも六年になる。直接の理由は、先日のことだね。今西の一件、情報云々のこと、あれだね。」
青木は黙っていた。
「君がそうこだわるなら、君の気の済むようにしたがよかろう。僕にしても、一旦言い出したことを引っ込めるわけにはいかないからね。」
「私はスパイ根性が大嫌いです。スパイのまたスパイ、そんなものには虫唾が走るんです。」
「現在の君としては、そうだろうね。」
青木は眉根を寄せた。なんだか予期に反するのだった。話があまり通じすぎるのである。石村は静かに言った。
「君も変ったねえ。」
青木は石村の眼を見た。
「つまり、なんというか、インテリになったということだよ。時勢が変り、緊迫が次第に激しくなると、僕も変った。君と反対に、次第に野蛮になってゆくよ。どうも、君と僕とは反対の方向に歩いてるようなものだね。」
青木はまた眉根を寄せた。話があまり通じすぎるのだった。ふと、疑念が湧いた。
「私があのようなふしだらをしたから、退職の口実を造ってやるた
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