間を置いてだったので、丸田は眼を丸くした。
「石村さんにとって、何が問題なんですか。」
「そんなことは私には分りませんね。」
「万里の長城です。日本に万里の長城を築こうというんです。だから、ばかげてるじゃありませんか。それを誰が言い出したかと言えば、この私です。だから、ばかげてるじゃありませんか。それもこれも、みな酒のせいです。だから、ばかげてるじゃありませんか。」
丸田は怪訝な面持ちで黙っていた。
「いったい、ひとをやたらに疑ったり、ひとをやたらに信じたりするのが、間違いの元です。だから、何でもないことがスパイに見えたり、何でもないことがスパイのスパイに見えたり、大間違いの結果になります。ばかげてるじゃありませんか。私は断然嫌ですね。みな酒のせいです。だから、私は酒をやめますよ。」
そして青木は立て続けに酒を飲んだ。
「まったく、今日はあんたはどうかしていますね。」
覗き込んでくる丸田の顔を、青木は眼を大きくして眺めた。
「あ、丸田さんでしたか。」
「これは、御挨拶ですね。今迄誰と話をしていなすったつもりですか。」
「え、何か言いましたか。聞き流しておいて下さい。少し気持ち
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