のびをしました。
男たちはどよめきました。一人はトニイにピストルをさしつけました。
トニイは目をこすりながら、自動車から出てきて、あたりを見まわし、奇術《きじゅつ》の紳士に目をとめ、うれしそうに走りよりました。
「なあんだ、絵はがき屋の小僧か。どうしてこんなところにいたんだ」
「ああおじさん、助けておくれよ。誰かへんな奴《やつ》が、僕をつけねらってるんだよ。一生けんめい逃げだして、海岸のところに自動車があったから、その中にかくれているうちに、眠っちゃったんだけれど、ここまで追っかけてくるかも知れない。ねえおじさん、助けておくれよ。おじさんなら大丈夫だ。もうおじさんをはなさないよ。そいつが来たら追っぱらっておくれよ」
そしてトニイは紳士の胸にしがみつきました。
みんなあたりを見まわしました。
「どんな奴だい?」と紳士はたずねました。
「へんな奴だよ。めっかちで鼻がつぶれていて、口が耳までさけてるんだよ。せいの高さは二メートルか三メートルもあって、にぎり拳《こぶし》が犬の頭くらいあるんだよ」
「まるで化《ば》け者《もの》じゃないか」
「うん、化け者だよ。角《つの》もあるかも知れないよ。そいつが、しじゅう僕をつけねらってるんだ。助けておくれよ」
トニイはなおしっかと紳士の胸にしがみつきました。
一同は困ったようでした。何かひそひそささやきあいました。紳士はいいました。
「じゃあ、今夜はおれのところに泊めてやろう。そして明日の朝おくっていってやるよ」
「ああそうしてね。おじさんのそばなら大丈夫だ」
一同は自動車のなかの大きな箱をかかえて、鉄の戸から中へはいりました。階段があって、それをおりていくと、地下室の広間でした。
大きなテーブルがならんでおり、ぜいたくな椅子《いす》がならんでいました。テーブルの上には、酒瓶《さかびん》やコップやトランプの札などがちらかっていて、壁には銃や剣などの武器がかかっていました。
次の部屋にはいくつもベッドがならんでいました。まるで寄宿舎のようでした。トニイはすぐそこに寝かされました。
広間の方では、さっきの男たちが、酒をのんだり、トランプをしたりして、おそくまで起きていました。
トニイはわーっと大きな声で叫び立てました。奇術《きじゅつ》の紳士がはいってきました。
「どうしたんだ」
「おじさん、ついててくれなくちゃいやだよ
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