ところに登りたくなって、効果が消えるまでは下りて来ない。アラビアのラッフィング・プントの実をたべると、やたらに愉快になって、笑い歌い踊り、疲れて倒れるまでは止まない。また、故人の初盆に一家揃って写真をとったところ、一同の後ろ上方に、ぼんやり白いものがあるので、よく見ると、それが故人の姿だったと、そういう種類の話は無数にある。ところで、かかる薬草の効果や霊的異変はぬきにして、肉体そのものに執拗な生命力がからみついてる、新らしい怪異を紹介しよう。怪異といっても、これは全く事実談である。
 私の或る知人の家で、潮来の近くへ釣りにいったそのみやげを貰った。新聞紙にくるんで三時間あまりにさげてこられた川魚であるが、そのなかに、三匹生きてるのがあった。三四寸の鮒二匹と、一尺ばかりの鯰一匹。丁度庭に小さな池があって、何にもはいっていないので、その三匹の魚をはなっておいた。
 それから半年ばかりたってのこと、或る朝、池の鯰が、仰向になって水面に浮いている。どうしたことか、今迄元気だったが、俄に死んでしまったのだ。すくいあげて、とりあえず、コンクリートのたたきの上に置いておいた。
 その鯰の死体は、それ
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