、私自身の返答です。」
彼女の両の眉が、ちらと寄りあいました。
山川正太郎は室内をまた見渡しました。もう誰もいませんでした。電灯の光りがまじまじと明るいだけでした。
「塚本さんは、もう帰りましたか。」
「さきほどまでおいででしたが、もうお帰りになったと思います。」
もっとも、塚本老人は、近くに住んでいましたので、帰り去ってもすぐに再来することはよくありました。それを、山川正太郎が尋ねましたのも、実は、他のことを考えていたからでありました。
或る時、塚本老人は言いました。
「あの加納さんは、よく出来た方でございますね。万事しとやかで、そして、何事にもよく気がつかれますよ。お母上の従兄筋にあたる加納家の末の娘さんですから、御当家とも深い縁故がおありになります。その故でもありますまいが、お母上には、まるで御自分の娘のように、お気に入っていられますようでございますね。」
そんなことを、山川正太郎に向って言う塚本老人の真意は、まだ明かでありませんでした。だが、そこにも、なにか陰謀めいたものを、山川正太郎は感ずるのでした。
山川正太郎はじっと加納春子の顔を見て、言いました。
「あなたは
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