《ひたい》に汗《あせ》をにじましながら、つよい調子《ちょうし》でいいました。
「わたくしは、もう人形使《にんぎょうつかい》をやめまして、故郷《こきょう》に帰《かえ》るつもりでおりました。この人形も、もう人様《ひとさま》にお目にかけないつもりでおりました。ところが、ターコール僧正《そうじょう》さまのことをききまして、わたくしどもを長いあいだ養《やしな》ってくれましたこの人形のために、一|度《ど》お祈《いの》りをしていただきたいと考えました。そして僧正《そうじょう》さまにお願《ねが》いいたしました。僧正《そうじょう》さまはすぐに承知《しょうち》してくださいました。わたくしどもの宿《やど》まできてくださいまして、人形のためにお祈《いの》りをしてくださいました。そのお祈《いの》りのさいちゅうに、この人形はいきいきとした顔《かお》になって、わたくしどもに笑《わら》いかけました。わたくしは、わたくしどもは、それをはっきり見ました。ほんとうに笑《わら》いかけました。生きあがりました。わたくしどもは、ただうれし泣《な》きに泣《な》きました。……そして、人様《ひとさま》のおすすめによりまして、この人形を
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