ず」に傍点]をつまぐりながら、祈《いの》りをはじめました。窓《まど》からさしてくるぼーっとした明るみのなかに、香《こう》の煙《けむり》がもつれ、ろうそくの火がちらついて、僧正《そうじょう》の祈《いの》りの声はだんだん高まってきました。
人形が、びくりと動《うご》いたようでした。はげかかってうすよごれのしてるその顔《かお》に、ろうそくの光《ひかり》がうつって、ほんのり赤みがさしてきます。眼《め》が大きくなります。今にも口をききそうです。その口|元《もと》にはもう、やさしい笑《え》みをうかべています……。僧正《そうじょう》の祈《いの》りの声は高く低くつづきます。
コスモとコスマは、びっくりしたような気持《きもち》で、人形の顔《かお》に見入っていました。もう眼《め》をそらすことができないで、いっしんに見入っていました。僧正《そうじょう》の祈《いの》りの声と、ろうそくの光《ひかり》と香《こう》の煙《けむり》のなかで、人形がうっとり笑いかけたとき、コスモとコスマの眼《め》からは、涙《なみだ》がはらはらと流《なが》れました。そして涙《なみだ》を流《なが》しながら二人は、人形の顔《かお》を見つめ
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