ているのでした。ところが、そういう生活《せいかつ》は時がたつにつれて、はじめほど面白《おもしろ》いものではなくなってきました。天気は毎日|晴《は》れるものではありませんし、お金はいつももらえるとはきまりません。それに方々の土地《とち》も見つくしてしまいました。だんだん年もとってきました。人形もこわれかけました。いっそ故郷《こきょう》へ帰《かえ》って、そこで百姓《ひゃくしょう》をしてる息子《むすこ》のところで、残《のこ》った生《しょう》がいを送《おく》ろう、とそう二人は相談《そうだん》しました。
 ちょうどそのとき、この土地《とち》にたいへんえらい坊《ぼう》さまがいられるということを聞《き》いて、二人は、今まで自分たちを養《やしな》ってくれた人形のため、その坊《ぼう》さまにお祈《いの》りをしていただいて、そして故郷《こきょう》へ帰《かえ》ろうと思ったのでした。
 そういう話を、ターコール僧正《そうじょう》はにこにこしながら聞《き》いていました。
 宿屋《やどや》について、奥《おく》のせまい室《へや》にはいっていきますと、コスマはぼんやり考えこんでいました。
「僧正《そうじょう》さまがいら
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