正《そうじょう》は答《こた》えました。
 男はうれしそうに、眼《め》をかがやかして、僧正《そうじょう》の顔《かお》をながめていいました。
「ほんとうでございますか」
「お祈《いの》りはわたしの仕事《しごと》だ」と僧正《そうじょう》はほほえんで答《こた》えました。「一|文《もん》もお金をもらわないでも、あなたの宿《やど》まで行って、そのこわれかけた人形のために、お祈《いの》りをしてあげましょう」

     二

 大きなぼだい樹《じゅ》のあるターコール僧正《そうじょう》の家から、一|里《り》ばかりはなれた町のはずれに、きたない宿屋《やどや》がありました。見すぼらしい年とった男は、そこへ僧正《そうじょう》を案内《あんない》してきました。そしてみちみち、僧正《そうじょう》へ自分の身《み》の上を話しました。
 彼《かれ》はコスモといって、女房《にょうぼう》のコスマと二人で、諸国《しょこく》をへめぐっている人形使《にんぎょうつかい》でした。天気のよい日町や村の広場に人をあつめて、コスモが人形を踊《おど》らせ、コスマがマンドリンをひいて、いくらかのお金をもらい、そして方々|旅《たび》をしてあるい
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