ました。眼や口や鼻までそっくり見えて、向こうにも同じ生きた子供たちがいるようなんです。
「わかったかね、はっはっは……」
皆が振り返ってみると、髪の長い見馴《みな》れぬ男は、なお笑いながら立ち去って行きました。引き止めるまも何もなく、まるで宙を飛ぶようにして、山の方へ見えなくなってしまいました。子供たちはあっけにとられました。
そこへ、長者のうちのお祖父《じい》さんが出て来ました。子供たちは昨日からの話をしました。お祖父さんはびっくりしたように、まっ黒な塀《へい》を見ていましたが、しまいに言いました。
「それはきっと、大変えらい人にちがいない。お前達はよいことを教わったものだ」
子供たちはさっぱりわけがわかりませんでした。けれど黒塀《くろべい》の鏡が出来たのはうれしいことでした。朝日のさしてる時ばかりでなく、午後になっても、月が出てれば夜分《やぶん》でも、黒塀の鏡は皆の姿をうつし出してくれました。それもただの影法師《かげぼうし》ではなく、生きた人間と同じ姿なんです。
皆はいろんな姿をうつして、自分も踊り影の姿も踊らして、いつも大変愉快に元気に遊びました。
底本:「豊島与志
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