間に置けば、幻を見るので、ますますその確信は裏付けられた。
 坪井君は無気味に思いながらも、その刀を伯父に返すのを惜しがった。そして或る研師の手にかけたところ、刀は無銘ながら、確かに青江の相当のものだとのことであった。青江の刀と云えば、福岡貢の十人切の青江下坂をはじめ、妖刀として定評がある。坪井君はなお気味悪くなり、布に包み箱に納めて納戸に隠してしまった。
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――こういう話、君は一笑に付してしまうだろう。僕だって、まさか……と思うことに変りはない。けれども、坪井を単に迷信家だと云いきるのも、どうであろうか。人は時あって、或る思想に捕えられることがあり、或る観念に捕えられることがあり、随ってまた、或る幻覚に捕えられることもあるだろう。思想や観念が、往々にして人から独立して存在するものであり、それが人を捕えるのだ、という見方も成立するとするならば、幻覚についても同じことが云えないだろうか。或はまた、前に云ったように、昔からの言い伝えなどというものが蘇って、坪井に復讐したのかも知れないのだ。
[#ここで字下げ終わり]
 坪井君が東京に出て来た時、私は右の話を聞いた。私は
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