かく、坪井の妖性は特徴的だ。
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 坪井君は三夜続けて幻を見て、はたと思い当った。それは丁度、伯父のところから刀を貰って来たその夜からのことである。刀は床の間に置いてある。
 幻が果してその刀の故かどうか、坪井君は友人に試してみた。小学教員をしている一人の友人を呼び、ビールなど振舞いながら引止めて、その夜、無理に泊めてしまった。隣室に寝かし、室の片隅に刀をひそかに置き、素知らぬ顔をしていた。その深夜、友人は慌しく坪井君の室に飛びこんで来、真蒼な顔をして喘いでいる。訳を聞けば、人間大の真白な蜘蛛が天井からおりてきて、やがて胸の上にのしかかり、息がつまったのだと云う。その蜘蛛の幻が、眼底から去らず、怪しく心おののいて、一人では寝られぬと云う。
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――坪井に現われたのは白衣の女人であり、友人に現われたのは真白い蜘蛛であった。この相違は注意に価する。僕の解釈は云うまい。君自身で考えてみ給え。
[#ここで字下げ終わり]
 友人に試したことで、坪井君はいよいよ、幻はその刀の故だと確信を得た。其後、刀を行李に納め、押入にしまえば、幻は見ず、刀を取出して床の
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