をつけていると、それが障子を越し、すーっと迫ってきて、とたんに、眼が眩んだのだった。我に返りはね起きて、その幻が眼底から消えると、冷い戦慄が背筋に流れた。
 それに類した幻を、坪井君は、三晩続けて見た。第二夜には、白衣の女人は室の外を、壁や障子の外を、ぐるぐる歩き廻っていたが、やがてそれが室の中となり、圏が次第に縮小して、坪井君の身体とすれすれになり、そこで坪井君ははね起きた。第三夜には、白衣の女人は、天井の上にいたが、やがて天井の下に出て来、坪井君の胸の上までおりて来、そこで坪井君ははね起きた。
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――坪井が見た妖性には、一つの特質がある。それは直ちに室内に出現しはしない。いつも、障子の外、壁の外、天井の上、などに出て来るのだ。而もはっきりと見えるのだ。その時、障子や壁や天井板は、そこだけ硝子のように透明になる。いや、それはむしろ硝子の面の映像とでも云おうか。障子や壁や天井の外だと見ていたのが、いつしかその内側、即ち室内になり、次ですぐ身辺に迫ってくるのである。――硝子戸などに映った像が、硝子戸の外から室内へと移り迫ってくるのを、君は見たことはないだろうか。とに
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