心動いて、その青江の刀を是非見せて貰いたいと懇望した。坪井君は承知して、但し譲渡するわけにはゆかないと断り、郷里から刀を取寄せることにした。
 坪井君が青江の刀を私の宅へ届けたのは、折も折、盂蘭盆の十三日の、しとしとと細雨の降る夕方だった。私は快心の笑みを洩らしながら、その刀をうち臨めた。縞目も分らぬ古錦の袋を開けば、年月の埃に黝んだ白鞘で、それでも研師にかけただけあって、中身は冷徹に冴え渡った大刀、相当の業物らしい。私は何事を措いても、その夜を楽しみに、少々酒まですごし、白鞘の刀を枕頭に横たえて、早くから床に就いた。
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――僕の下心では、もしそれが本当にお化を出してくれる刀だったら、坪井が伯父さんを瞞着したように、何とかかとか云い張り、場合によっては如何に高価でも、借金までしても、それを坪井から巻き上げるか買取るかするつもりだった。刀には執着はないが、お化にこがれていたのだ。と云って、僕は妖怪変化の存在を信じてるのではない。そんなものはまあ居ないものと思ってはいるが、然し、どうかして逢いたいのだ。世には、怪異を見たという人は随分多い。それがたとい幻覚であるにせよ
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