張金田は陳家の姻戚に当る人で、もと杭州の出でありまして、現に杭州に別荘も持っていますし、陳家とはごく親しい間柄でありました。上海で、おもに雑貨の貿易品を取扱っているとのことでしたが、いろいろな方面に関係しているらしく、その仕事の本体は曖昧だとされていました。大変富裕らしく見せかけていましたが、実は、陳家からも数万の金を引出して、そのままになっておりました。その張金田が、昨年の暮に、妙な手紙を陳秀梅に寄来しました。――娘の瑞華ももう十六歳になるのだから、来年は結婚のことをよく考えてもよかろう。丁度よい相手が上海にいるし、場合によってはこの金田が貰ってもよろしい。また秀梅自身も、若いのにいつまでそうしてもおられまいし、何とか考えを変えるべきであろう。それに現在のままでは将来のことも案じられる。陳家に出入の人々のうちには、財産や婦人を求める眼色も相当に多いと聞く。兎に角万事のこと、来年の春そちらへ出向く折に詳しく相談したい。――そういう意味の突然の手紙でありました。冗談と露骨さとの入り交った、真意の掴めないものでありました。
 陳秀梅はその手紙に相当悩まされました。殊に、いろいろ貪慾な眼
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