を周囲に感じることもありましたので、最後の項には心を刺され[#「刺され」は底本では「剌され」]ました。けれどもこういう事柄については、一家のうちに適当な相談相手も見付かりませんでしたし、財務に忠実な徐康とても、女の心情には思いやりの少い老人に過ぎませんでした。そして何よりも不安なのは、当の張金田自身が何のために右のような手紙を書いたのか、それが分らないことでありました。もう四十歳にもなって独身でいる彼、数人の妾がいるとかいう彼、仕事に曖昧な影の多い彼、どんなことを企らんでいるか分りませんでした。
そしてこの三月になって、張金田は商用を兼ねて別荘にやって来ました。蘇州の絹布と麻布とのすばらしい刺繍[#「刺繍」は底本では「剌繍」]の土産物を、秀梅と瑞華とに持って来ました。これまでに嘗てないことでした。けれども、手紙の一件については、彼は一言も口に出しませんでした。秀梅の方もいい出しませんでした。そこにまた、いつどんなことになるか分らない不安がありました。
李景雲はいつも、画舫好きな張金田に贔屓になっておりましたし、今日のように張金田が湖上でお茶の集りをするような時には、彼一人が呼ばれる
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