のでしたから、彼にもし陳秀梅一家に味方してくれる心があるなら、張金田の真意もそれとなく監視し、なお今後とも力になってほしいというのでありました。
 そういうことを、知性のすぐれた景雲には納得出来るほどのいい廻しで簡単に、秀梅は話しました。そして溜息をつきました。
「女の気持が分るような人は、世の中にめったにありません。」
 黙って聞いていた景雲は、急に叫びました。
「私を信じて下さいますか。」
「信じますからこそ、こういう話をしました。」
「私は、何でも致します。あなたのためなら、どんなことでも致します。」
「誓って下さいますか。」
「誓います。」
 秀梅は右手を差出しました。景雲はちょっとためらった後で、そこに跪いて、彼女の手を執って胸に押し当てました。それから跪いたまま椅子に半身を投げかけて、しみじみと泣きました。
 秀梅はじっと宙に眼を据えていましたが、つと立上ってあたりを見廻しました。湖面はただどんよりと凪いで、湖心亭の小島の茂みが、もう長い影を引いていました。

 それから一ヶ月あまりたちました或る日のこと、町の料亭の奥室で、盛宴が催されていました。張金田を中心に十数名の人々
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