するため、日の出を見たくなったのですよ。」
こんどは景雲が、怪訝そうに眼を見張りました。そして二人の眼が暫く合った時、秀梅はふいに、にっこり笑いました。
「つまり、どちらも同じことのようですね。」
景雲の頼に、熱い色がのぼりました。
そして暫く黙っていますと、秀梅は、蓮の実の菓子をつまみ、その鉢を景雲の方へも差出しました。景雲はびっくりしたように腰をあげて、秀梅へ茶を汲んでやりました。秀梅はその茶をすすりながらいいました。
「用があれば家へも来ると、あんたは約束しましたね。」
「いえ、約束などではありません。いつでも伺います。」
「それなら、これから時々来て下さいよ。あの時の御礼に……といっては変ですけれど、いろいろお頼みしなければならないこともあります。わたしはあんたを信じています。また、わたしに出来ることなら、何でもしてあげますから、相談して下さいよ。」
景雲はじっと頭を垂れて、涙ぐんでしまいました。
「ただ一つ、心に置いといて貰いたいことがありますのよ。」
と秀梅はいいました。
その秀梅の話というのが、景雲には全く意外なことでありました。張金田に関することでありました。
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