く天上的な恋に終るでありましょう。私の恋も、またあなた自身も、或る貪慾な男によって辱しめられました。二三日黙ってお待ち下さい、すべてが明らかになりますでしょう。
 それだけをいって、私は逃げ出したのだった。あの人は大凡のことを覚ったに違いない。然し必ずこれを持ちこたえてくれるに違いない。今となっては、あの人も私を愛してくれてることが明らかだ。愛は女の最強の支柱だ。
 もはや私に残された途はただ決行のみだ。その他の途は凡て塞がれている。
 それもよろしい。この土地に別れを告げることが、私の宿志ではなかったか。西湖を銭塘江岸へと展開させないところに杭州の頽廃があるとは、敵の口にまで上せられる私の持論だった。水浅く濁って、ただ水田の広いのに過ぎないこの西湖が、如何に三潭印月や湖心亭の影を宿そうとも、また、煙雨の中に模糊たる愁思を漂わそうとも、また、数々の名跡を周辺に鏤めようとも、畢竟は、湖底は寺院の香の灰に蔽われてるという巷説を、否定できるものではない。それは人を眠らせはしよう、人を憩わせはしよう。然し人を錬え生かすものとはならない。寺院と墓地と別荘と病院とが、更に更に殖えるもよかろう。私は 
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