当人の張金田を訪れて、その前に私は平身低頭して、詫言をいったのだ。心にもない嘘をいい、心の奥にあるものを口頭で否定して謝罪したのだ。陳秀梅さんに対する感恩のために、そして酒の酔のために、それが私の唯一の皮相な口実だったのだ。
 卑劣な嘘言にひっかかる者に、災あれ。彼自身卑劣の外の何者でもないのだ。張金田は私の策略に陥って、更に私の献身や助力を求めようとした。私は誓った。おう、恥しくも誓った。真の誓いは真心の上にのみ打立てられることを知らない者に、災あれ。
 張金田から誓いを求められたことによって、私は漸く自分の力を知った。ああこれを知ることの、も少し早かったならば……。
 然しそれは、遅きに過ぎはしなかった。私は自分の力を知るに及んで、同時に、自分の恋の深さをも知ったのだ。
 私は陳秀梅さんの前に跪いて、いつかの画舫の中でのように跪いて、告白したのだ、私はあの初陽台の時から、あなたを恋しておりましたと。
 その時のあの人の蒼ざめた神々しい顔は、私の眼の中にはっきりと残っている。永久に残るであろう。だが私は、瞬間、それに堪えきれなかった。
 私はあなたを恋しております。けれど、これは恐ら
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