ばして笛に打振ったりしましたが、またやがて専念の姿勢に戻るのでした。そして蘇堤の――端近くなると、くるりと向きを変えて引返し、他の一端近くなると、またくるりと向きを変えて引返しました。二キロに近いこの長い蘇堤の上を、こうして彼は幾度か往復しました。堤上の楊柳はしなやかな枝葉を張って、風もないのに、柳絮は時折彼の身に舞いおちました。
 彼は何を思い耽っていたのでありましょうか。それを言葉に直してみますならば――

 私の決心はもう定まっている。これ以外の決定はなし得ないところへまで、私は落ちこんでしまったのだ。いや、落ちこんだのではなく、自然に推移してしまったのだ。
 ただ一つの私の悔いは、今日の卑怯な振舞であった。然し自然にも策略があるとするならば、この卑怯な振舞も一つの策略として許されるであろう。
 昨日の夜、私は、数名の市人たちの面前で、そして数名の娼婦たちの面前で、即ち公衆のさなかで、辱しめを受けた。而もそれが私の恋人への侮辱によって、いや、私の恋愛への侮辱によって、為されたのである。
 私はその辱しめのなかから、頭を垂れて出て来たのだ。
 そして今日どうであったか。私は侮辱した
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