妹はうなずき笑って、景雲の肩にもたれかかりました。そのゆらゆらした前髪に耳をなでられて、景雲はびっくりして立上りかけ、鶯妹は倒れそうになって飛び上りました。金田と他の妓たちがどっと笑いました。
景雲はすぐ、ばかなことをしたと思って、自分の腿を強くつねって、その痛みに赤い顔をしかめました。そして酒を飲みました。
他の一隅に、永遠に尽きない妻妾論が起っていまして、一体独身者は妾を欲するが故に独身でいるのか、或は妻を厭うが故に独身でいるのか、いずれが真実かという議論になりまして、その解決を金田の真意に問いかけてきました。それに対して、金田は他の答え方をしました。文化の高い民族ほど、女は年をとっても容姿が衰えないし、随って妾の必要は少くなるものだが、文化の低い民族ほど、女は年をとるにつれて早く老衰し、随って妾の必要が多くなるというのでした。それではこの国ではどうかということになりまして、この国では女は結婚するとすぐに婆さんになると、金田は断言しました。
「ただ、少数の例外はある。」と彼はいいました。「僕はその一人を知っているが、彼女はもう三十五六歳にもなるのに、水の滴るような容色をしている
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