で、午後の三時頃から夜まで引続きました。初めは経済や政治の話題も出ましたが、夜になるにつれて人数も減り、三十年配から四十年配の者四五人となり、それがみな張金田の親しい飲み仲間ばかりでしたから、酒の酔につれて話も猥雑になり、やがて芸妓が呼ばれるようになりますと、一座はすっかり乱れてきました。宴席のそうした調子は、それがただ偶然の集りであることを示すものでありました。実際、その日の午過ぎ、この料亭で結婚式が行われまして、それに列した張金田は、式後、奥の室に陣取りまして、知人をやたらにそこへ引張り込んだのでした。彼はなにかしら、心が苛立ってるとも浮立ってるとも見えるのでありました。
室の床には、水瓜の種の皮や、向日葵の種の皮や、落花生の皮や、梅の実の種や、鶏の骨などが、あたりに散らばり、また誰かが結婚式の残りのものを持って来たと見えまして、五色の切紙やテープが散乱していました。夜の時間がたつにつれて、料理の皿は冷えてきましたが、老酒の銚子は熱くなりました。拳《けん》の勝負を争う者もあり、カルタを取寄せる者もあり、女に戯れる者もあり、口をあけてうっとりしてる者もありました。
そういうところへ、張金田からの使の者に呼ばれて、李景雲がやって来ました。彼は、一座の人々の着飾った様子と、室の乱れと、芸妓たちとを見て、入口に佇みました。
「いよいよ御入来か。」と金田が叫びました。「遅かったぞ。二度も使を出したぞ。さあこっちへ来るんだ。君を待ち焦れてるひとがいるんだ。」
彼は立上って来て、景雲の肩をつかんで室の奥に引張ってきました。
「どうなすったのですか。」と景雲はよろけながら尋ねました。
「どうもこうもない、今日は目出度い結婚式だ。」
「どなたの式ですか。」
「どなたもこなたもない。俺の…… 君の結婚式だ。そう、君と並んでみたいという者があるんだ。」
金田は一人の年若い芸妓を彼の側に引立てました。それには景雲も見覚えがありました。※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]が少し尖った、身体の細そりとした、鶯妹というのでした。鶯妹はただ扱われるままになって、にこにこ笑い、おかっぱの前髪がゆらゆら揺れました。
「ははは、よく似合うぞ、そうしてるところを、あのひとに見せたいものだ。怒られるぞ、まあ一杯飲め。」
景雲はちょっと顔を赤らめましたが、平然と幾杯も飲みほしました。
ところで、こうした乱れた宴席では、言葉があちこちへ飛び、話題も飛躍するものでありまして、中心を捉えるのに困難でありますが、ただ、金田の酔った頭には、景雲のことがなにかひっかかってるようでありました。彼は景雲を一同に紹介するのに、これが例の画舫の哲学者だといいました。また或る所で景雲が述べたという説を披露しまして、その有名な言葉として、西湖を銭塘江岸へと展開させないところに杭州の頽廃がある、というのを伝えました。そこで、西湖の風光と銭塘江の風光との比較論がちょっと出ましたが、金田はもうけろりとして、景雲へ他のことを囁きました。陳家の信頼をあまり得すぎて、瑞華との結婚の話でも持出されたら、承諾する気があるかというのでした。
景雲はすすめられるままに杯をあけながら、答えました。
「あのひとと結婚なさるのは、あなたではありませんか。」
そしてすぐ彼は、ばかなことをいったと思って、自分の腿を強くつねって、その痛みに顔をしかめました。
金田は声高く笑い出しました。
「君は可愛いことを考えるね。鶯妹に好かれるだけあるぞ。……おい鶯妹、この人は君と結婚したいんだそうだ。もう今夜は帰すなよ。」
鶯妹はうなずき笑って、景雲の肩にもたれかかりました。そのゆらゆらした前髪に耳をなでられて、景雲はびっくりして立上りかけ、鶯妹は倒れそうになって飛び上りました。金田と他の妓たちがどっと笑いました。
景雲はすぐ、ばかなことをしたと思って、自分の腿を強くつねって、その痛みに赤い顔をしかめました。そして酒を飲みました。
他の一隅に、永遠に尽きない妻妾論が起っていまして、一体独身者は妾を欲するが故に独身でいるのか、或は妻を厭うが故に独身でいるのか、いずれが真実かという議論になりまして、その解決を金田の真意に問いかけてきました。それに対して、金田は他の答え方をしました。文化の高い民族ほど、女は年をとっても容姿が衰えないし、随って妾の必要は少くなるものだが、文化の低い民族ほど、女は年をとるにつれて早く老衰し、随って妾の必要が多くなるというのでした。それではこの国ではどうかということになりまして、この国では女は結婚するとすぐに婆さんになると、金田は断言しました。
「ただ、少数の例外はある。」と彼はいいました。「僕はその一人を知っているが、彼女はもう三十五六歳にもなるのに、水の滴るような容色をしている
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