蝦蟇は、町の薬種屋の手に渡る前に、必ず四五日はその檻の中で過させられた。その間に彼等の価値の上下が定まるのである。
 或時、村の若者が大勢そのわくどう爺[#「わくどう爺」に傍点]の家に押し寄せた。稀代の大蝦蟇が取れたというのであった。人間の頭位の大きさで眼が金色に光ってるということであった。然し若者等の好奇心は満されなかった。もうそれはわくどう爺[#「わくどう爺」に傍点]のうちに居なかった。
「へへへ、彼奴は神倉山の精でがすよ。俺等の手にはおえねえだ。返して来たから、行ってみなっせえ。まだ出てるかも知んねえ。」
 わくどう爺[#「わくどう爺」に傍点]はそう云った。皺寄った赤黒い顔の中から、小さな眼が睨むように覗いていた。
 所が不思議なことには、誰もその大蝦蟇を見た者が居ないことだった。どんなだと聞いても、わくどう爺[#「わくどう爺」に傍点]は、ただ大きいと云っただけで何とも答えなかった。人間の頭位の大きさで金色の眼をしてるという噂が何処から伝わったか、更に分らなかった。誰も見なかったのである。そしてわくどう爺[#「わくどう爺」に傍点]はそれについて一切口を噤んでいた。
「今に村の不思
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