っと前足を立てた。それから後足を立てると、殆んど同時に片方の前足は一歩進んでいた。そして四本の足の上に大きな厚ぼったい感じのする重い胴体を支えながら、四五歩前方に歩んだ。すると直ぐにどしりと尻を地面に落して止まった。然しそれは静止以上のものだった。静かなうちに動いていた。生きて居た。大きい口をぱくっとやると、その辺のものはすーっと吸い取られた。そして飛び出た両の眼は一つ所に定められて動かなかった。背中の斑点が呼吸のためにかすかに動いていた。
私の両の眼もじっと蝦蟇を見つめて動かなかった。そして私も呼吸をしていた。私達は二つの別なものでもあれば、また一つのものでもあった。そのままで三十分余りもたつことがあった。勿論私はその時、時間などのことは全く忘れてはいたが。
何故に? 何のために? ということが私の問題ではなかった。如何にする? 如何になる? ということが私の問題でもなかった。否、凡そ「何」という字のつくことは全く問題ではなかった。それならば?……それは私にも分らない。私はただじっと蝦蟇を見ていた。それが如何にも落付いていた。
そのうちにあのことが起ったのだ。その時私は何かしら
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