う。」
母にもそれを繰り返しました。
母もわたくしもがっかりしました。二日たち三日たって、忘れかけておりますと、また、火事と病気を用心しましょう。それからまた忘れかけておりますと、火事と病気を用心しましょう。その言葉が、わたくしたちの頭に沁みこみ、わたくしたちの身体を縛りつけるようで、じつに嫌な気持ちでした。嫌な気持ちというだけでなく、どこか心の隅に現実のことのように引っかかってきました。
美津子さん自身にとっては、火事と病気を用心しましょうと、ただそれだけの単純なものではなかったようです。電波の複雑な警告に依りますと、お前にはたいへん悪い病気があって、皆からきらわれるから、気をつけるがいい、という風にも受け取れるのでした。また、お前はいつも隅っこに引っ込んで、下らないことをこそこそやっているが、そんなものはみんな、火にでもくべてしまうがいいというふうにも受け取れるのでした。
そして電波はいろいろになって、自由に美津子さんを操縦しました。電波がたいへん強い時には、もう身動きが出来なくなることさえありました。じっと竦んで、夜など、電燈を見つめておりますと、スタンド全体がゆらゆら揺
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