す。」
それが、電波のことだったのです。例の怪電波は、美津子さんの生態反応を詳細に吸収しながら、時々、攻勢に出るようになってきました。その一つとして、先日、美津子さんは嫌なことを告げられました。
「この家に、火事が出るか、重病人が出るか、どちらかだと、確かに申しました。ですから、今後とも、用心致さなければいけません。」
わたくしもそこに居合せておりまして、母の顔を見ますと、母は眼を皿のようにしていました。美津子さんが母のちょっとした風邪を心配してくれたわけは、それで分りましたが、しかし、そのようなことを改めて言われますと、あまりよい気持ちは致しませんでした。
「お互に、これから、用心することにしましょう。」
言うだけのことを言って、美津子さんはわたくしどもの返事を待たず、ぷいと立ってゆきました。
固より、わたくしどもは電波のことなど信じはしませんでしたが、美津子さんの頭がだんだん変になってくるのを見て、暗い気持ちになりました。母は黙って溜息をつきました。
ところが、こんどのことについては、美津子さんはいやに執拗でした。後でまたわたくしに言いました。
「火事と病気を用心しましょ
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