それからまた細々と、わたくしに注意を与えました。どうも親切すぎて、干渉がましいとさえ思われました。それからまた幾度も、医者にかかるよう勧めました。御自分のことは棚にあげて、こちらはちょっとした風邪なのに、しつっこいほど医者を勧めました。
それでも、美津子さんが母の枕元に坐りこむのはやはり五分間ばかりの程度で、言いたいことを言い聞きたいことを聞いてしまうと、すっと立って行きました。
母の風邪が癒りますと、美津子さんは不思議なほど喜びました。ほんとによかったとか、お目出度うとか、何度も繰り返しました。それから小豆を買ってきて、赤の御飯をたいて祝ってくれました。
それまではまあ無事でしたが、あとがいけませんでした。
母が針仕事をしてるところへ来て、美津子さんはぴたりと坐り、母の顔をじっと見て言いました。
「病気がおなおりなすって、ほんとに宜しゅうございました。」
「ええ、あなたにもいろいろお世話になりました。」
「ほんとに危いところでございましたよ。」
母は怪訝な顔をしました。
「実は、お知らせしたものかどうか、迷いましたが、やはりお耳に入れておいた方が、今後のために宜しいと思いま
前へ
次へ
全23ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング