も行き、通常の人と少しも変らなくなってしまいます。つまり、周期的に、一月目とか二月目とかに、一週間の電波恐怖が起るのです。
 そのような話をして、良吉さんはわたくしたちを安心させようとなすってるようでした。けれど、母も感じたことですし、わたくしも感じたことですが、良吉さんの話の調子といい、その態度といい、へんに冷淡な無関心なところがありまして、内心では果してどう思っておられるのか、会得し難いものが残りました。もう気持ちの底では、美津子さんを見捨てておられたのかも知れません。けれどそのようなことは、わたくしにはよく分りませんし、また、とやかく言える筋合でもございません。
 良吉さん御自身がそうですから、わたくしたちも諦めまして、口出しすることを差し控え、もう暫く様子を見ることに致しました。
 美津子さんはますますひっそりと、そして憂鬱そうに日を暮して、外出することも少なくなりました。
 そのうちに、母が風邪の心地で、五日ばかりうち伏しました。すると美津子さんは、朝と夕方、必ず寝室にやって来まして、母の顔色を窺い、容態を尋ね、体温を聞きました。もし体温を計っていないと、すぐに計らせました。
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