れることがありました。風もなく、地震もないのに、スタンドが揺れました。よほど強力な電波が来たに違いありませんでした。
「ほんとに揺れるのを、わたしははっきり見ました。」
 そういう美津子さんの言葉には、確信の調子がこもっておりました。
 母もわたくしも、もう放っておけない気になりました。どうしたらよかろうかと、相談することもありました。
 そのうちにとうとう、あんなことになってしまいました。
 或る晩、たいへん遅くなって、良吉さんが帰って参りました。わたくしたちはもう寝こんでおりましたが、母が起き上って丹前を引っかけ、戸を開けに出て行きました。良吉さんの帰りは夜更けのこともしばしばでしたし、時には外泊のこともありましたし、わたくしたちはそれに馴れておりました。
 その晩、良吉さんは全く泥酔しておりました。母から聞いたところでは、よろよろとはいって来て、玄関の土間に腰を落ちつけてしまいました。母から援け起されると、案外しっかり立ち上り、両方のポケットから、宝焼酎の瓶詰を一本ずつ、つまり二本取り出して、上り框に並べ、おばさん、どうです、と嬉しそうに笑いました。
 それから二階に上りかけまし
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