通りすぎました。そんなことが数回ありました。中には、あなたは狙われているから用心なさいと、注意してくれる者もありました。
そういうことで、次第に分ってきたのですが、美津子さんは特別な実験に使われてるのでした。どこかの放送局から、その特殊な電波を美津子さんに向けて放射し、美津子さんのあらゆる反応を記録に取ってるのでした。なぜ自分一人が狙われるのか、その理由は分りませんでしたが、然し、その実験が成功すれば、きっと、まだ多くの人が狙われるに違いありませんでした。
そういう非人道的なことをして宜しいものかどうか、美津子さんは憤慨しましたが、なにしろ相手が電波のことだし、眼にも見えず手にも捉えられず、確かな証拠を挙げることが出来ず、ただ独りで※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]くだけでした。
何かの話のついでに、そのような電波は実際はありますまいと、わたくしが申しましたら、美津子さんは屹となって答えました。
「いいえ、確かにあります。現に今でも、わたしはこうしてその重圧を受けているんです。」
そうなってきますともう、何かの病気の前兆か精神の一種の異状かと、わたくしたちは判断する
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