りぽつりと断片的に言うだけですし、事柄が事柄だけに、わたくしたちにはさっぱり腑に落ちませんでしたが、前後のことをひっくるめてみますと、だいたい次のようなものでした。
 どこからか、強力な電波が送られて来るようになりました。どの放送局から発せられるのか不明でしたが、目差すところはいつも美津子さん一人に限られていました。そしてその電波が伝わりますと、頭の中までじいんと響き、手先や足先までしびれる感じがして、ひどい重圧を全身に受けました。美津子さんも初めは大して気にしませんでしたが、重圧は次第に増してきました。そして遂には、原稿も書けなくなりそうだし、読書も出来なくなりそうだし、全く癈人同様になる外はないように思われました。
 それになお、その電波は特殊なもので、こちらの微細な反応を、そっくり先方へ送り返すのでした。レーダーの極度に精緻なものだとも言えるようでした。こちらで思ってること、考えてること、夢に見たことまで、そっくり先方に分ってしまうのでした。
 そういう電波が或ることを、美津子さんは知りませんでしたが、天気のよい或る日、道を歩いておりますと、誰かひそひそと、その電波のことを囁いて
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