見つけて、おれは進んで行った。拳をにぎりしめ、だまって見つめた。千代はちょっと振向いて、にやりと笑った。その臀を、おれは思いきり引っ叩いてやった。
千代はころりと横に倒れた。おれはただ見ていた。やがて彼女は起き上り、跣のまま、家の方へ戻っていき、急にしくしく泣き出して、裏口へはいって行った。
おれは外から様子を窺った。――千代はしゃくりあげて泣いている。嘉代さんが着物の泥を払ってやりながら、すかすように尋ねている。どうしたのか。転んだのか。誰かに悪戯でもされたのか。どうしたのか。いくら尋ねても、千代は返事をしないで、ただ泣いている。
おれはそこへはいって行った。千代はおれを見向きもしないが、嘉代さんが訴えるように言う。
「ほんとに、この子は、まるで赤ん坊ですよ。頭が少し悪いものですから、せめて、みなりだけなりと……そう思って、わたしがいくら気をつけてやっても、すぐにこうなんですよ。それでも、泣くことなんかないのに。……大きいなりして、いつまで泣いてるんですか。さあ、もういいから、足を洗っていらっしゃい。」
おれは何にも言うことがなかった。店の方へ行って、煙草をふかした。忌々しか
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