てそれが一座の中にきょとんとした感じで、戸棚の上のめくり暦の方へ眼をやっている。
おれは席を立った。根本的にばかげた感じだ。店の方へ行って、構うことはない、一升壜から冷酒をコップについで、それをあおりながら、がしゃがしゃ洗い物をした。それが済んでもまだ、みんなが食卓のまわりにぐずってるので、裏木戸から外に出た。
ぱっとした煌々たる月夜だ。少し歩いていって、柔かい畑地よりも、堅い往来のまん中に、しゃーと小便をしてやった。ずいぶんたまっていたのを、すっかり空にして、いい気持にして、月明の中を歩いた。春たけなわといっても、夜気はひいやりとしている。
家に戻ると、もうみんな寝たらしい。赤木夫婦は二階の室に、千代はその横の小部屋に、そしておれは階下の室に、寝場所はきまっている。電燈だけが明るい、が、外の月夜よりは薄暗い感じだ。おれはも一杯酒を飲み、同じコップで二杯水を飲んで、布団にもぐりこんだ。
その翌日が大変だ。おれは寝坊してるところを、赤木にたたき起され、飯をたいてくれと言うのだ。いったい、朝も晩も、米飯は嘉代さんが自分でたくにきまっている。おれは腑におちなくて、赤木の皮膚の厚い感
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