赤木が言った。
「そうして頂きましょうか。ねえ仲本、それがいいね。」
「いいかも知れませんね。」とおれは機械的に答えた。
それよりも、おれは、先程からの嘉代さんの様子に気を惹かれていた。――嘉代さんはじっと伏目がちに、横額をぴりぴりさしていた。実際に動いてるわけではないが、その緊張が見えるようなんだ。肥満してるというわけではないが、こういう商売をしている四十女の重量がこもってる横額のぴりぴりは、無視出来ないものを持っている。
古賀さんは、千代の手首を握った。口がゆがみ、眼尻が垂れ、肌がいやにだだ白い、白痴の彼女の手首を、握手するように握りしめてるのだ。
「千代ちゃん、明日から病院に行こう。そしてほんとうに頭がはっきりしてから、戻ってくるんだ。叔母さんや叔父さんや、みんなで迎えに行くよ。」
彼は千代の手を引っ張って、その醜悪な娘を、膝に抱こうとしたらしかった。が手を離して、後ろに転げた。――おれにもよく分らないが、千代が、手首を取られてるその指先で、彼の皮膚を思いきり抓ったものらしい。
そんなことがあっても、ふしぎに、千代はいつもの通りの表情、今にもにやりと笑いそうな顔付で、そし
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