答はとぎれた。古賀さんは嘉代さんの方へ乗り出して声を低めて言った。声を低めても、相当に酔ってるから、おれにまで聞える。
「はっきりしていますね。はっきりしているけど、偏執ですね。それだけだから、なおりますよ。」
 おれは赤木をつっついて、コップで酒をあおってやった。何もかも、そうだ何もかも、忌々しいのだ。
 古賀さんは、天ぷらの一切れを口に入れた。鯖の切身をちょっとごまかして、下等なピーナツオイルで揚げたものだ。なにしろ素人料理なのだ。それから古賀さんは酒を飲んだ。短髪の大きな顔をにこにこさしている。
「千代ちゃん、叔母さんと叔父さんと、どっちが好きかね。」
 叔母さん叔父さんは、赤木夫婦のことだ。――千代は、すました顔で、返事をしない。
「それでは、叔母さんと仲本さんと、どっちが好きかね。」
 千代はすました顔で、返事をしない。
「あんまりいじめちゃ、可哀そうだ。」
 おれは思わず言ってしまった。
 古賀さんは、きっとおれの方を見たが、すぐに笑った。
「そうだ。判断力がないからね。然し、このぶんならなおるよ。病院でゆっくり治療さしてやりましょう。」
 誰も黙っていた。時たって頓狂に、
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