慮なく彼の杯を受けた。高笑いが起った。話声が高くなり、また低くなった。病院、神経、電気、などという言葉が聞えた。ははあそうか、とおれは合点した。暫く話がとだえた。
「千代ちゃん、ちょっといらっしゃい。」と嘉代さんが呼んだ。
おれ一人が店の後片付けか、と思っていると、赤木が呼んでくれた。
「おい仲本、君もまあ一杯やれよ。」
古賀さんは機嫌がいいようだった。大した会社でもないらしいがその社長で、商工省の何かの囑託をしてる彼は、機嫌のよい時には、チョッキの胸ポケットに親指をつっこむ癖がある。今もその癖を出しながら、千代とおかしな問答をしてるのだ。
「千代ちゃん、」と彼は親しそうにいう。「千代ちゃんは、雀と燕と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「それじゃあ、雀と烏と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「それじゃあ、雀と鳩と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「それじゃあ、こんどは、雀と鳶と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
「そんなら、雀と鶴と、どっちが好きかね。」
「雀が好き。」と千代は答える。
それで問
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