もウイスキーをちょっぴりさして、匙ですくっては味をみ、またちょっぴりさして、匙で一掬いずつ味をみていた。子供が戯れに味わってるみたいで、銀の匙と小さな爪とが光りに映えていた。
「哲夫君のことなら、御心配いりませんよ。頭もよいし、真面目じゃありませんか。なにか、お気になることがありましたら、あの学校の担任教師に聞いてあげましょうか。」
浅野が勤めてる学校は、哲夫が通学してる学校とは別なのである。
「あなたがそう御覧なさるなら、それでもう結構なんですの。わたしが充分に面倒もみてやれませんので、どうかと思いましてね。なにしろ、田舎から預ってる子なものですから……。」
「然し、あなたによくなついてるし、あなたもたいへん可愛がっていらっしゃるし、それだけでもう充分ですよ。」
美枝子は眼でちらと笑った。青いような感じのする黒目である。
「でも、わたしにへんな噂でもたったりすると、いけませんわね。」
浅野が返事に迷っていると、美枝子はまた眼で笑った。
「あなたは、先日、わたしにへんな噂がたってると仰言ったわね。どんな噂でしょう。」
「では、なんにも御存じないんですか。」
「いいえ。」
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