に言った。つい先日も、二人きりの時、彼女に言った。
「奥さん、しっかりして下さい。なんだか嫌な噂が伝わっておりますよ。僕は勿論、それを信じはしません。僕は……奥さんのためなら何でも致します。」
 彼女は問い返そうとしたが、哲夫がそこへやって来たし、彼はあわただしく辞し去った。
 美枝子が知ってる男たちは、殆んど凡てと言ってもよいくらい、彼女に対して、馴れ馴れしい態度を取り、一方では、持って廻った曖昧な言葉遣いをするのだった。それが、浅野はまるで正反対なのである。
 髪の毛はこわくてばさばさだが、眼鏡をかけていない細面の顔は、蒼白い方で、上品にさえ見える。
「浅野さん。」と美枝子は呼びかけた。「あなたに、すこし伺いたいことがあるんですの。」
 浅野がびっくりしたように顔を挙げると、美枝子は頬笑んでいた。
「哲夫のことですけれど、なんだか勉強に身がはいらないように思われますが、どういうものでしょうかしら。いったいに、この頃の中学生なんか、生意気になってるようですけれどね。」
 その聞き方に、実は、身がはいっていないのだった。女中が持って来た紅茶に、彼女はウイスキーをさしてやり、自分の紅茶に
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